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映画『家族の肖像』 個室の中の完璧なドラマ

映画『家族の肖像』 GRUPPO DI FAMIGLIA IN UN INTERNO

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2017年2月11日(祝・土)より、岩波ホールほか全国順次ロードショー

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部屋に閉じこもる老人を描くことで、人間の本質を描いた作品

私が観た映画の中の最高傑作の一つ。
演出の素晴らしさ、それに応えた俳優陣も素晴らしい!
ここで出てくるアイテムとして音楽・絵画が有るが、その使い方も、それに精通しているヴィスコンティならでは。
この作品では孤独を好む老人の前に、ある日突然、家族というものが現れる。
そこには欲望というものを隠さず露わにする人種達であった。
老人の心の中での葛藤とそれを受け入れたものの、また裏切られる経過を部屋というディテイルの中で描ききっている。
テーマの深さを物の見事に表現していること、一切の無駄を省きながらも語り残したところの無い完璧なストーリー。
そこにはヨーロッパの芸術、映画の娯楽性までもが醸し出されている。
時代性は無いものの、人間の普遍的な部分を追求した作品。

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映画館で観終わってやはり疲れる、難解な映画である、と同時にヴィスコンティの作品の中でも最も完成された作品だと思う。
それは他のヴィスコンティ作品は、受け取る側(観客)の感性と言うものに、かなりの部分を委ねているのに対して、この作品では明確にヴィスコンティが描こうとするものが映し出され考えることを要求しているようにも思える。
その理由の一つに、家の中から出ないと言った閉ざされた空間の中で物語が進行していく事に有ると言っても良い、まるで舞台劇のように話は進んで行く。
ただヴィスコンティは、舞台劇と映画の明確な違いを意識しており、常に映像の中に奥行きを持たしている。
この辺の演出に関しては、今更どうこう言う必要は無いだろう、素晴らしいの一言である。
テーマは世代間ギャップで有り、古い世代の一人の人間の孤独感である。
ただ、このギャップや孤独感は、主人公の教授の性格に依存するものであり、ある特定の階級等に所属する人々の一般的な話では無い。
またヴィスコンティの作品の素晴らしい点として、登場人物の奥行きの深さ。
そう言う意味で教授が妻の事、母親の事を回想するシーンなどは重要な意味を持つ。

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この作品は『地獄に堕ちた勇者ども』と同様に、非常に政治的・思想的な意味合いも込められていた。
ファシズムとしての右派と、共産主義的な過激派が出てくる。
そこにはヴィスコンティ自身も経験した共産主義的左派の挫折も明確に読みとれる。
時代から逃避した老人と、現実の中に埋没している人々の悲劇...ただ、この老人が現実には存在しえない人なのだろうか?
人間の心の中に潜む欲望、それは複数の人々が集えば必ず争いが起きる原因となる。
それは人の集まりの最小単位である家族であったとしても(ここでは仮想的な、もしくは擬似的な家族では有るが)。
ならば、それを避けて生きていきたいと願う事も有るのでは。
確かに、この作品の教授は余りにも象徴的に描かれているが、実際の人々の中に潜む孤独、それを明確に捉えている。
そうコンラッドやブルモンティ婦人の家族は、現実の世界の人々の象徴として描かれる。
それは欲望に満ちた人々であり、片やブルジョワ的資産階級であり、片や革命的共産主義者である。
どちらが良い悪いでは無く、そこには自己矛盾が存在しており、醜いものが潜んでいて、常に争いを起こす。
それはお互いを愛す事でもそうで有り、仲間の間でもそうで有り、家族の間でもそうなので有る。
そしてそこから逃避したい...と、考えるのはある意味、人間の弱さであり本質なのかもしれない。
こうしてヴィスコンティは、この作品で人間の内面を見事に描いて見せた。
また映画の造形の面からも、2つの側面を描いて見せた。
教授の部屋は、時代錯誤的なバロック調の部屋であり、コンラッドの間借りした部屋は現代的な部屋に改装されている。
コンラッドの部屋を見て、観客は初めてこの作品が現代の物語であることに気付かされる。

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イタリア人でありながら、一時期、アメリカに渡航した老教授をバート・ランカスターが好演。
ヘルムート・バーガーの妖しさはここでも美しい。
それ以上に素晴らしかったのは、派手な衣装を装いながらも、品の良さを持った上流階級の貴婦人を演じ、と同時に女性のエゴを丸出しにした演技をしたシルヴァーナ・マンガーノは秀逸である。
登場人物を限ったことにより、一人一人の人物を深く描き人間の本質と時代性を描いたヴィスコンティの本当の傑作である。

映画『家族の肖像』のデータ

Conversation Piece(Gruppo di Famiglia in un Interno 121分 1974年 イタリア

監督■ルキノ・ヴィスコンティ
製作■ジョヴァンニ・ベルトルッチ
脚本■ルキノ・ヴィスコンティ/エンリコ・メディオーリ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ
撮影■パスカリーノ・デ・サンティス
音楽■フランコ・マンニーノ/モーツァルト『神よ、私の心を、K364』
編集■ルッジェーロ・マストロヤンニ
美術■マリオ・ガルブリア
衣装■ヴェラ・マルツォ/ピエロ・トージ
助監督■アルビーノ・コッコ
製作会社■ルスコーニ・フィルム/ゴーモン・インターナショナル
備考■テクニカラー、トッドAO
日本公開■1978年
出演■バート・ランカスター/シルヴァーナ・マンガーノ/ヘルムート・バーガー/クラウディア・マルサーニ/ステファノ・パトリッツィ/エルヴィラ・コルテーゼ/ロモロ・ヴァッリ/クラウディア・カルディナーレ/ドミニク・サンダ

【解説】
 ローマ市内で静かに暮らす教授のもとに、奇妙な一群がやってきた。母娘とその情夫たちである。彼らは教授の屋敷の2階に住み着き、教授の平穏な生活はかき乱されてしまう。だが、母親の情夫コンラッドとの美術談義だけは、教授に不思議な安息を与えていた。そんなある日、コンラッドが過激派に襲われて負傷してしまう。やがて、その傷がきっかけとなり、コンラッドは彼らの前から姿を消すことになるが……。巨匠ヴィスコンティが、現代における家族の存在理由と定義を問い直す、静かだが力強い作品。B・ランカスターとヨーロッパ映画界を代表するスターの顔合わせも大きな魅力となっている。映画データベース - allcinema より)

題名の“家族の肖像”とは、18世紀イギリスで流行した家族の団欒を描いた一連の肖像画の事。
ローマの広大な邸宅に住む老教授(バート・ランカスター)は、この“家族の肖像”のコレクションが趣味で、それらの絵画に囲まれて孤独に暮らしている。
そこに、実業家夫人ビアンカ(シルヴァーナ・マンガーノ)が現れ、彼女の愛人コンラッド(ヘルムート・バーガー)の為に、強引に教授の住む邸宅の2階の部屋を借りたことから、教授の生活は一変する。
孤独に暮らす教授に新しい“家族”が加わったのだ、だが教授はコンラッドを理解できないまま・・・。
解体され変貌する家族の中の旧世代の孤独感を描いた、ヴィスコンティのレクイエム。

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