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映画『ルートヴィヒ』 バイセクシャルの不完全な美学

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映画『ルートヴィヒ/神々の黄昏』 LUDWIG

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ルキノ・ヴィスコンティの生涯についてはこちらから

ルキノ・ヴィスコンティ -作品と演出- はこちら

ヴィスコンティ作品の中で完璧ではないが最も好きな作品

ヴィスコンティの傑作中の傑作。
彼はこの作品に際して、老体に鞭を打ちドイツの寒い山林の中での撮影を敢行した。
この事が彼を病に追いやった。
それでも、この大作を完成させた執念は、もの凄いものを感じずにはいられない。

この作品の内容と言うより、ここには総合芸術としての映画、全ての芸術・娯楽という要素を見事に融合させている。
オペラなどのクラシック音楽はもちろん、映像的にもその室内装飾から衣装までも素晴らしく、ルードウィヒが建てたノイシュヴァンシュタイン城までもが、この映画を際ただせている。
その構成する要素全てを完璧なまでに使いこなす。
これだけの作品は、これ以降も生まれる可能性は少ない。

狂王と呼ばれたルードウィヒ二世をヘルムート・バーガーが見事に演じている。
その変わっていく様と共に、彼の置かれる環境も変わり、徐々にその耽美で倒錯的な世界が展開される。
この作品でヴィスコンティは、芸術を愛する一人の国王が、国王という存在そのものが変わろうとした時代に、変化についていくことが出来ず、それに押しつぶされる人物像を描いている。
こういった人物を描いた時に、ヴィスコンティの本領が発揮される。
私がこの作品を楽しんだのは、ストーリーそのものや、その裏に有るヴィスコンティの表現したい事ではない。
ヴィスコンティの作った世界観、それは上にも書いた音楽や映像、そして魅力有る登場人物。
ルードウィヒやエリザベートと言った周りの人物自体も魅力的であるが、それを演じる俳優達の上手いこと・・・
ヴィスコンティが見事にその個性を引き出し、映画の一部に取り込んでいる。
それ全てが歪みが無く完璧に構成されていることに酔いしれることが出来る。
そして見終わった後の心に残る強い感動を止めることは出来ない。
感動と言っても、それは得体の知れないものであるが・・・。
映画というもの存在が何か・・・この作品を観ていると、それすらを超越してしまっている。
架空の世界にも関わらず、そこには完璧なまでのリアリズムと同時に余りに美しい世界が広がっている。

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テーマやストーリーの意図するものを追ってみたい。
この作品のテーマは、(明らかにヴィスコンティの出生にまつわる)有る階級が、時代に取り残され崩壊していく様を描いている。
ヴィスコンティはイタリア貴族の名門中の名門。
主人公・ルートヴィヒは、バーヴァリア王国(ドイツ南部バイエルン地方のミュンヘンに首都を置く)の国王。
ルートヴィヒは純粋さと王族として育った環境(教養や躾けと言ったもの)によって、芸術と言うものに強い関心を持った。
この点はヴィスコンティと共通する点でも有る。
ルートヴィヒの悲劇は、ヴィスコンティよりも半世紀早く生まれたことが大きく影響している。
それは旧時代から新時代過渡期とも言える時代。
ルートヴィヒは心の自由を求め孤独を好んだ。
このことが彼の立場、特に彼の所属する階級には許されないことだった。
時代が違えば許されたことであったとしても、20世紀に向かう激動の時代において、王制の存在自体が疎まれた時代おいて許されることでは無かった...特に政治家にとっては。

ルートヴィヒは自分の理想のため、ワグナーに莫大な国費を投じたが、それは国民、国に受け入れられなかった。
ルートヴィヒは自分の中に有る、自由を求める心、欲求が有ったが、それを手に入れているかのような女性、エリザベートに恋をする。
しかし、それはルートヴィヒやエリザベートにおいても許される恋では無かった(この点、エリザベートは現実的)。
彼の理想と孤独を求める欲求は、最初からこの時代に受け入れられる事は無かった。
ルートヴィヒは、まず戦争という現実から逃避した。
それからは常に現実とは向き合おうとはしない。
国王としての義務、世継ぎを作ること、これ(結婚)も拒否をした。

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ヴィスコンティは、明らかに時代に押しつぶされる、ある階級を徹底的に描いている
ルートヴィヒだけではない、ルートヴィヒの母親の皇太后も、弟オットーも、輝きを失っていく。
ルートヴィヒの追い求める、芸術や孤独の裏側に有るのは、常に人への、人からの“愛情”で有った。
これがうち破られ、彼は本当の孤独になり自らの人生に自分で幕を下ろす。
ルートヴィヒが男色に走るシーンが描かれるが、これはカトリックの教えを彼なりに守った故。
婚約者ソフィーとの婚約解消の際に、司教に童貞で有ることを聞かれる。
彼は唯一愛した女性エリザベート以外に結婚の意志もなく、童貞を守り続けること誓うのがこのシーンで判る。
また舞台女優が、ゴシップ目当てにルートヴィヒに近づいて来るシーンも、彼の純潔さを表現している。

ルートヴィヒが政府に追いつめられた時に、エリザベートはルートヴィヒが作った城を周り、ルートヴィヒの元を訪れる。
ルートヴィヒが建てた壮大な城を見てエリザベートは大声で笑う。
彼女は、はっきりとルートヴィヒを理解したのだ。
本来はルートヴィヒに会って、彼の浪費を諫めに来たはずだが、ルートヴィヒが会わないことを知ると、あっさりと帰ってしまう。
彼女には痛いほど、ルートヴィヒの悲しみと苦悩が感じてしまう...だから、逢わずに帰ってしまう。

しかし、この映画の本当の素晴らしさは、そのテーマ自体ではない! これを如何に表現したか?に有る。
ヴィスコンティの演出の素晴らしさには目を見張る
カメラのアングルや音楽の当てはめ方...そして、その完璧性。
鏡の使い方や色使い、ルートヴィヒが幽閉された精神病院的な城は、モノトーン的な色使いをしている。
それまでの鮮やかな色使いから一転する。
鮮やかと言えば、洞窟に池を作り船を浮かべて白鳥を泳がしている。
ワグナーの音楽が鳴り響く。

どのシーンをとっても印象的で美しい造形。
調度品にしても全てが本物(少なくともそう見える)で、貴族出身のヴィスコンティでなくては、これだけ細部までのこだわりは出せないはず。
幽閉された城に掛けられた絵の数々は、エリザベートに招待されて初めてソフィーに会った部屋に掛けられていたもの(確か...?)。
そう言った一つ一つのシーンを印象づけ、しかも意味の有るものにしている。

またヴィスコンティの最も得意とする人物描写と俳優への演出。
ルートヴィヒを演じたヘルムート・バーガーやエリザベートを演じたロミー・シュナイダーの素晴らしさは言うまでもないが、他の人物に関しても丁寧に描かれる。
一つの例としてルートヴィヒを捕らえに来た中心人物の大臣・ホルンシュタイン伯爵の描き方。
あまりにも野心的で頭の切れる人物であることを明確に描ききっている。
ルートヴィヒの母親にしても、彼女の威厳有る態度がルートヴィヒの立場を明確にし、しかもプロテスタントからカトリックへの改宗(?)のシーンでの疲れ果てた表情で、時代の流れまでも表現させている。
ストーリーと言っても、一人の人生を描いているだけにも関わらず飽きさせないのは、人物の描き方が魅力的だからであろう。

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ヴィスコンティ作品のどこが良い?『ルートヴィヒ』のどこが素晴らしい?と聞かれても一言で答えを出すことは出来ない。
それは絵のルノワールやゴッホ...音楽のベートーベンやモーツァルト...のどこが良いのか?と聞かれるのと一緒。
映画という総合芸術そして娯楽性、それを見事に表現しているのがヴィスコンティ作品であり、特にその表現力と言う点で、ヴィスコンティ作品の中でも『ルートヴィヒ』は優れた作品と言える。
映画のなんたるか!が、この作品で味わうことが出来る、傑作中の傑作。

イタリア語版ではルートヴィヒ役のヘルムート・バーガーの吹き替えをジャンカルロ・ジャンニーニ(後にヴィスコンティの『イノセント』に出演)を起用するなど、豪華。
ヴィスコンティの偉大さが判る。
また題名の日本語表記が「ルードウィヒ」から、「ルートヴィヒ」に変更されている。

映画『ルードウィヒ』のデータ

LUDWIG 184(240)分 1972年 イタリア=西ドイツ(現ドイツ)=フランス

監督■ルキノ・ヴィスコンティ
製作■ウーゴ・サンタルチーア
製作総指揮■ロバート・ゴードン・エドワーズ
原案・脚本■ルキノ・ヴィスコンティ/エンリコ・メディオーリ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ
撮影■アルマンド・ナンヌッツィ
音楽■ロベルト・シューマン『子供の情景作品15』/リヒァルト・ワグナー『ローエングリーン第一幕への前奏曲』、『トリスタンとイゾルテ』、『タンホイザー』、『最後のピアノ曲』/ジャック・オッフェンバック『パリコール序曲』
ピアノ独奏・演奏指揮■フランコ・マンニーノ
演奏■サンタ・チェチリア国立音楽院管弦楽団
編集■ルッジェーロ・マストロヤンニ
美術■マリオ・キアーリ/マリオ・シッシ
衣装■ヒエロ・トージ
助監督■アルビーノ・コッコ
製作会社■メガ・フィルム/ディーター・ガイスラー・プロドゥクツィオーン/ディフィナ・フィルム/シネテル
備考■テクニカラー、パナビジョン
日本公開■1980年
出演■ヘルムート・バーガー/ロミー・シュナイダー/トレヴァー・ハワード/シルヴァーナ・マンガーノ/ゲルト・フレーベ/ヘルムート・グリーム/イザベラ・テレジンスカ/ウンベルト・オルシーニ/ジョン・モルダー・ブラウン/フォルカー・ボーネット/ハインツ・モーク/アドリアーナ・アスティ/ソニア・ペトローヴァ/マルク・ボレル/ノラ・リッチ/マーク・バーンズ

【解説】
 狂王と呼ばれたバイエルン国王ルードウィヒ二世は、19歳で玉座につき、その美的趣味を国費でもって究めたいけない人。ワグナーのパトロンになって、言われるがままに金を出し、オペラ劇場を作るわ、自分でも三つのお城を建てて、その一つ、リンダーホフ城には地下に人工池造って白鳥のゴンドラうかべてるし……。そんな贅沢三昧そのままに、映画はそれら本物を使ったり、再現して、もう垂涎の絵巻物を繰り広げる。けど、ルードウィヒは寂しいのだ。最愛の従姉エリザベート(R・シュナイダーの白鳥に跨る姿の美しさ!)は人の妻(オーストリア皇后)。その妹ソフィと結婚するはずが、やっぱ諦め切れなくて婚約破棄。以後はただもう、そんな享楽生活に身も心も捧げて歯も腐るほど。親しい人(含む愛人の男たち)みんなに逃げられて、結局“ご乱心”とされ幽閉。暗殺だか自殺だか判らぬ死を迎える。製作会社を倒産に追い込み、自分は卒中に倒れても完成させた大作だが規模だけでなく、その精神の気高さ、深い教養、美への執着において、このような映画は二度と作られまい。これをヴィスコンティは、主演のお稚児さん、H・バーガーを役者として大成させるために作ったってぇんだから、侯爵さまのなさることはスケールが違う。彼のドイツ三部作(「地獄に堕ちた勇者ども」「ベニスに死す」)の終幕を飾る作品で、その死後、本作の回想形式をとらない完全版(220分余)がM・マストロヤンニの弟ルッジェロの編集によって作られた。映画データベース - allcinema より)

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