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映画『風と共に去りぬ』 ハリウッド映画史に残る不朽名作を語ってみる

永遠のドラマ 『風と共に去りぬ』

人間ドラマの普遍性

現代社会の複雑さは、60年前とは比べようもない。それは間違いない事として、そこに有る人間の悲しみや喜びは、60年前とそれ程違いはないのではないだろうか?
現在の映画では、その複雑な人間関係を背景にして、ある時は哲学的であったり、またある時は心理学的な思考に基づいて、画面上に表現されることがある。映画の歴史に於いて、作品の中に心理学的な側面が色濃く現れてくるのは、1950年代あたりだろうか...

では、『風と共に去りぬ』が製作された当時の映画は?と言うと、そのドラマティックな語り口によって人に見せようとしていた。
『風と共に去りぬ』も当然のように、(原作が有ったとしても)物語自体が非常にドラマティックである。
そこに描かれているのは、アメリカの最大の内乱、南北戦争を背景に、人間の誇り、家族愛、夫婦愛、親子愛、そして友情で有った。

その全てがこの作品には詰め込まれているのである。

愛され続ける理由

『風と共に去りぬ』で描かれる人物像や恋愛観は、今の時代にも同様で、そう言った点がこの映画が永く愛される理由だと思う。

スカーレットのような気性の女性、わがままで、計算高く、人のことを考えない、ようは嫌な女なのである。
しかし、それは本音と常に前向きな姿勢の現れであり、またその無垢さが可愛い女とも言えるのである。
メラニーは、優しさの中に勇気と気高さを持った、ある種聖母のような女性に描かれている。
しかしそれは、弱い男にとっては心安らぐ存在であるが、強い男にとっては実は側にいられると自分の思い通りにならない辛さがあるのかもしれない。
レットのような男性は、本当に理想的な男性像かもしれないけど、女性の心の中まで分かる事は出来ない。
アシュレーのような優柔不断な優男、だけどこういう男性に心が癒される女性も多いと思う。
そう言った4人の登場人物を通して、観客は自分の憧れや願望を見つけようとしているのではないだろうか?

そう観客(言い換えれば私)の心理的な変化(成長)に伴って、この4人の登場人物を理解したり、良いところや悪いところを見付け出したり、好きになったり嫌いになったりするのである。

登場人物の個性がしっかりと描かれた上で、そこにはその人間関係においても、丹念に描かれている。
スカーレットと父親、そして母親と妹たちの関係。
スカーレットと幼なじみのアシュレーの関係。
アシュレーとメラニー、スカーレットとメラニーの関係。
そしてレットとスカーレット、レットとメラニー、アシュレーとの関係。
見事なまでに、その人間関係が浮き彫りにされていく。
そうドラマティック!、ハリウッドの映画はエンタテインメントで有る。

その伝統はこの作品にも息づいている。
何も観客がハラハラドキドキするのは、アクションやSFXだけではなく、人間ドラマにおいてもそうなのである。

新しい発見

今まで書いてきたように『風と共に去りぬ』には、観る度に新しい発見がある。
それは感想の中にも書いたが、今回もまたそれを見つけ、感動する事が出来た。

家族の大切さ!
この映画の骨太なテーマとして、明日を生きるための精神、スカーレットを通して生きていくために必要なものが描かれているが、もう一つ、それに関わる重要な精神に気が付かされる。
それは家族の大切さ、夫婦の大切さで有る。
一つはスカーレットと父親、母親との親子関係、そしてそれ以上にスカーレットとレットの夫婦関係である。

スカーレットとレットは、出会いからすれ違いの恋愛をしてきた。
その中で夫婦になり、一人娘を授かる。
レットは、娘を通してスカーレットへの深い愛情を示している。
そこにはスカーレットが自分の言うことを聞かないのであれば、自分の言うことを聞くスカーレットのような女性に、娘を育て上げれば良い!と言う気持ちがあったのかもしれない。
しかしそれ以上に子供を作る・育てるという行為は、夫婦の生活の中で愛情を築き上げる最も重要で大変な作業なのではないだろうか?離れかけたレットのスカーレットへの愛情も、子供の存在で保たれている。

決して「子は鎹(かすがい)」と言いたい訳ではない。
子供は二人の愛情の歴史であり、子供が夫婦間の愛情そのものだったのである。
私がそれに気付いた時、子供の死と共に二人が別れるシーンに初めて涙するのである。

何度も観ることによって得るもの

『風と共に去りぬ』を何度も観て、観る度に新たな発見と共に、新たな感動を得る。
最初に観て、その壮大なスケールに感動するのも良いだろうし、メラニーの母性に打たれるのも良い。
レットの男らしさに魅了されるのも良いし、スカーレットの生き様に憧れることも有るだろう。

それはこの作品のような素晴らしい映画に出会う事と同時に、観る本人の成長も自分の中に記録していく事に違いないのではないだろうか?
「たかが映画」なのである。
しかしそれは向き合った時には、自分自身の成長を見つめている事にも繋がっている。
良いものを繰り替えし観る(小説のような書物で有れば繰り返し読む)、それが古いものであろうが新しいものであろうが、少しずつ新しい発見があることによって、人生も少しずつ変わっていくのではないだろうか?
いや、変わってきたこと(成長してきたこと)を確認できるのかもしれない。

Reviewed in 12.1999

映画『風と共に去りぬ』のデータ

GONE WITH THE WIND 234分 1939年 アメリカ
監督■ヴィクター・フレミング
製作■デビッド・O・セルズニック
原作■マーガレット・ミッチェル
脚色■シドニー・ハワード
撮影■アーネスト・ホーラー/レイ・レナハン/ウィルフリッド・M・クライン
音楽■マックス・スタイナー
美術■ライル・ホイーラー
衣装■ウォルター・プランケット
編集■ハル・カーン/ジェームズ・ニューカム
出演■クラーク・ゲイブル/ヴィヴィアン・リー/レスリー・ハワード/オリヴィア・デ・ハヴィランド/トーマス・ミッチェル/バーバラ・オニール/ハティ・マクダニエル/ジェーン・ダーウェル/ウォード・ボンド/イブリン・キース/アン・ルサフォード/バタフライ・マックイーン/ハリー・ダベンポート/イザベル・ジュエル

アカデミー賞 1939年
作品賞受賞
監督賞授賞 ヴィクター・フレミング
主演男優賞ノミネート クラーク・ゲイブル
主演女優賞授賞 ヴィヴィアン・リー
助演女優賞授賞 ハティ・マクダニエル
脚色賞受賞 シドニー・ハワード
作曲賞ノミネート マックス・スタイナー
美術賞授賞 ライル・ホイーラー
編集賞授賞 ハル・カーン/ジェームズ・ニューカム
色彩撮影賞授賞 アーネスト・ホーラー/レイ・レナハン
特殊効果賞ノミネート JOHN R.COSGROVE/ARTHUR JOHNS/FRED ALBIN
録音賞ノミネート THOMAS T.MOULTON
特別賞(製作企画)授賞 ウィリアム・キャメロン・メンジーズ
アーヴィング・タールバーグ記念賞授賞 デビッド・O・セルズニック

NY批評家協会賞 1939年
女優賞授賞 ヴィヴィアン・リー

<DATA>

 “タラのテーマ”を耳にしただけで走馬燈のように数々の名シーンが蘇り、知らず知らずの内に涙が溢れだし・・・そんな体験をした数限りない映画ファンが愛し続けた、いやこれからも愛され続けるであろう、アカデミー9部門(作品・主演女優・助演女 優・監督・脚色・撮影・室内装置賞・編集賞にタールバーグ記念賞)受賞のハリウッド映画史上不滅の最高傑作!
 南北戦争前後のアトランタを舞台に、炎のような女、スカーレット・オハラの波乱万丈な半生を、完璧なまでの配役とこの上な いほどの豪華なセットや衣装・・・と、今更語り尽くされた紹介はせずとも、その魅力あふれる内容とスケールの大きさはすでにご存じの筈。
 出演者選びにはじまり、撮影当初から最後まで差し替えられ続けた脚本や監督の交替劇など、その最悪状態の製作過程を も乗り越えた製作者セルズニックの執念と熱意(舞台裏での混乱をも宣伝効果に使った)。
 彼は10数人にも及ぶ脚本家の陣頭指揮を取り、当時まだ実験途中だったテクニカラーを導入する等、今や“セルズニックの監督作”と呼ばれるこの超大作を渾身で作り上げ た。
 “二度と作る事が出来ない”と言わしめただけの豪華さを持って、後の映画製作に(良くも悪くも)多大な影響を及ぼす結果を生んだ事も決して忘れてはならない所である。
 確かに長すぎるとも思える上映時間や、主人公スカーレット・オハラが万人に愛されるようなキャラクターでないのは事実。
 スカーレットが愛し続けたアシュレーも“そんなにイイ男か?”と思ってしまう部分もあるが、この映画 を通過する事は、映画ファンを自負する者にとってはもはや“義務”なのである。
 そう、“これを見ずしてハリウッドは語れない”のだから・・・。 <allcinema

 大プロデューサー、セルズニックが作り上げたアメリカ映画史上の金字塔。
 南北戦争が始まる直前のジョージア州アトランタ。
 大農場主の娘スカーレット(ヴィヴィアン・リー)は、アシュレー(レスリー・ハワード)を愛しているが、アシュレーは彼の従妹メラニー(オリヴィア・デ・ハヴィランド)と結婚してしまう。
 勝ち気なスカーレットはあてつけで、メラニーの兄と結婚するが折から始まった南北戦争で戦死、今度は妹のフィアンセを横取りして結婚するが、彼もまもなく亡くなってしまう。
 激しい戦火を、たくましく野性的な男バトラー(クラーク・ゲイブル)に助けられて切り抜けたスカーレットは、バトラーの強引とも言える愛情に引きずられて結婚する。
 だが、彼女はアシュレーへの思いが断ち切れず、二人の生活は破綻し、バトラーは彼女の前から去っていく。
 その時初めてスカーレットは、バトラーを愛していることに気づくが既に手遅れだった・・・。
 破格の製作費600万ドルを注ぎ込んだセルズニックの執念。
 ゲーブル、リーをはじめとする名優達の最高の演技。
 テクニカラーの画期的成功など、ミッチェル女史のベストセラーは黄金の’30年代を締めくくるに相応しい超大作となって甦った。
 特にスカーレットの波瀾万丈の生き方を通して、女性の立場からアメリカン・スピリットをうたい上げた点に、時代を越えて輝くこの作品の原点がある。

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